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王道にロックなスパイスを効かせるテーラー「LOUD GARDEN」岡田亮二氏
2024.7.21
文:倉野路凡 編集:中原ひとみ
歴史に裏打ちされた着こなしのルールがあるからこそ面白い紳士服。
そんなクラシッククロージングの世界に一石を投じるデザインセンスを放つのが、テーラーブティック・LOUD GARDEN(以下、ラウドガーデン)のクリエイティブディレクターを担う岡田亮二だ。
もちろん最近はクラシックの世界も大きく様変わりしている。そんな中でもきちんとしたクラシックの文脈を理解したうえで王道のなかに遊び心とスパイスを効かせ、クラシックとロックを融合させた唯一無二のデザインを創り上げる。
店構えもカタログも、隅々までロック魂を注入!
ラウドガーデンは、2012年6月9日に外苑西通り沿いにオープンした。開店した日にちからもわかるように、岡田は無類のロック好き。 店内のウィンドウやディスプレイには、ロックな世界観が落とし込まれている。
そんな店構えからも、当初はレコード店と勘違いするお客さんも多かったのだとか。ご存知の通り、テーラーのほとんどは予約制。ビルの一室に作業場として工房を構え、お客さんが来店したときだけ店舗になる。
しかし、ラウドガーデンは路面店で予約要らず。ふらりと入ってくる新規のお客さんも歓迎する。どちらかというと、テーラーとブティック的な要素を兼ねている感じだ。
理由は、「お客さんに直にデザインイメージと可能性を伝える」といった提案型のテーラーだから。つまり、定期的にコレクションブランドのように新作を発表する。新作と言っても既製品ではなくオーダーメイドの服だ。
自身が企画とデザインを行い、サンプルも作る。そのサンプルをウィンドウディスプレイしたり、店内でトルソーに飾ったりするのだ。
新作情報は、ダイレクトメールやイラスト入りのカタログ(年4回郵送)を送ってお知らせしているとのこと。このカタログのテキストも自ら担当している。できる限り、ラウドガーデンの世界観を妥協しないで表現し、伝えようとしているからだ。
オーダーから1ヶ月半で完成させ、旬を届ける
DMやカタログを見て気に入ったモデルがあれば、そのデザインと同じものを、あるいはそのモデルを参考にカスタムオーダーすることができる。
新作の中にはベーシックなスーツもあるが、ボタン位置やゴージラインを少しアレンジしたり、ラウドガーデンらしい遊び心をどこかに反映させたモデルが多い。
素材には、シーズンごとの新しい服地を使い、あくまでも岡田の考える“旬のデザイン”と“旬の服地”を提案している。その“旬”を大切にするため、縫製を国内の優秀な縫製工場に出して、お客さんがそのシーズン内に着用できるよう、標準的なオーダーであれば1ヶ月半ほどで完成させている。
この発想は、ほかのテーラーにはない。
もちろんテーラーであるから、注文主の体型に合ったものを提供している。初めてのお客さんの場合は、じっくり話し合い、どんなスーツやジャケットにしたいか時間をかけて決めていく。
具体的には、ふたつの工程がある。まずは、サイズの合うゲージ(試着用のサンプル)を着てもらい、余分なシワをピンで留め、美しいラインを一緒に探していく。体型や動きにフィットさせることはもちろん、仕事で使うのか、プライベートで着たいのか、それぞれのライフスタイルに合った好みのシルエットに調整していくのだ。
そして採寸においては顧客の希望を聞いてギリギリまで踏み込む。この部分の勇気とギリギリのラインを探る感性は岡田ならでは。
もうひとつの大切な工程は、素材選び。この際にも路面店の強みが出る。
通り沿いの大きな窓から、自然光の下で服地の色柄を確認できるのだ。服地は室内外で見え方が異なるため、細かなことだがライフスタイルに合わせるためには必要な工程だ。
イギリスのスーツをベースに、遊び心を散りばめる
ラウドガーデンらしい遊び心のひとつを紹介しよう。ポケットや服地の切り替えを中心に向けることで、“ユニオンジャック”に似せたデザインを取り入れ、どこかにロックテイストを反映させている。
「僕自身が音楽好きということもあり、普通のテーラーとは少し違うお客様が多いかもしれません。僕もそうですが、お客さんもスーツをオーダーするプロセスを楽しんでいる感じがします。お互いに、『ああしよう、こうしよう』と意見を出し合って、まるでジャムセッションのようです(笑)。もちろん普通のビジネススーツをオーダーされるお客様も多いです。初めてのお客様が来られてもいいように、毎日お店には出ています」。
ちなみに以前、英国王室御用達のGieves&Hawkes(ギーブス&ホークス)の日本での企画をやっていたこともあり、現在でもイギリスのスーツがデザインのベースになっている。
一見するとアバンギャルドにも映るが、伝統的な縫製やカッティングからは外れていない。ディテールでは、シングルブレストのピークドラペルやカッタウェイフロント、直線を生かしたシルエットなどを反映させている。
「1990年頃にアメリカのヴィンテージウエアが好きで、古着屋で働いていた時期がありました。当時は紺ブレブームということもあり、ブレザーやツイードといったイギリス源流の古着にも触れる機会がありました。大学生のときに音楽が好きだったので、ラウドガーデンで提案しているモデルも、クラシックなブリティッシュスタイルとロックのテイストがミックスしているのだと思います」。
いろいろな個性が集う場!デザインだけではないユニークさ
ラウドガーデンでは、日本で職人としての修行を続けるドイツ人、カットソーに独自のデザインプリントを施した製品の企画を手がける若者など、様々な作り手とコラボした活動も行なっている。
というのも、オープン当初から「いろいろな才能が競い合うような空間にしたい」と考えているからだ。その背景には以前の職場で運よく自らデザインした作品を、Pitti Immagine Uomo(ピッティ・イマジネ・ウオモ)に出展できたという経緯がある。
だから「いろいろな個性が集う場」という意味を含めたLOUD GARDENという名称なのである。
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自身の世界観を存分に表現しながらも、次世代を見据えて積極的に若手の意見を取り入れるラウドガーデン。新しい風が吹き循環している場だからこそ、オープンから12年、作家やミュージシャン、俳優などユニークな顧客にも継続的に支持され、新しく飛び込んでくるお客さんも絶えないのだろう。
この記事は、クラシッククロージングに造詣の深いファッションエディターの倉野路凡氏にラウドガーデンとクリエイティブディレクターの岡田について寄稿いただきました。
文:倉野路凡
ファッションライター。メンズファッション専門学校を卒業後、シャツブランドの企画、版下・写植屋で地図描き、フリーター、失業を経てフリーランスのファッションライターに。「ホットドッグ・プレス」でデビュー、「モノ・マガジン」でコラム連載デビュー。アンティークのシルバースプーンとシャンデリアのパーツ集め、詩を書くこと、絵を描くことが趣味。
編集:中原ひとみ